神経膠腫の臨床において、腫瘍細胞が脳実質内に浸潤性に増殖し摘出し切れないというのが、問題点の一つであることは周知の事実であり、この性質のために神経膠腫の治療はなかなか進歩できないと言っても過言ではなく、この性質を解決または場合によっては利用することができれば、神経膠腫の臨床を大きく前進させる礎となると思われる。これまでに我々が、コラーゲンゲル内で神経膠腫細胞の細胞塊を培養し、細胞塊中心部と周辺浸潤部の細胞群の遺伝子発現の違いをcDNA microarrayを用いて検索した。その結果、細胞塊中心部では177遺伝子(上昇106、低下68)に、また周辺浸潤部では104遺伝子(上昇91、低下13)に2倍以上の変化を認めた。この結果より大まかには、神経膠腫は腫瘍中心部で積極的な分裂/増殖を行い、その結果腫瘍中心部では酸素や栄養が不足した状態となり、そのような周囲環境に反応して細胞周期が停止し増殖が止まり、対応し得なかったものはapoptosisを起こし、対応できたものはある種の"分化"をしてより状況の好ましい周辺部に向かって移動(浸潤)して行き、さらに移動(浸潤)した先で好ましい環境を獲得したものは、そこで再び分裂/増殖を始める、と考えられた。今後は、これらの変化を認めた遺伝子のうち、細胞浸潤に関連するとの報告がなされているものが22遺伝子含まれており、それらに関してさらに詳細に解析を進める予定である。
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