本研究の目的は骨髄由来細胞の自家移植による中枢神経疾患に対する新しい再生医学的治療法の開発である。骨髄の血球系細胞の分化増殖を支える微小環境を構成している骨髄間葉系細胞は各種成長因子を含む種々のサイトカインを産生・分泌しており、その移植は脳梗塞などの中枢神経系虚血疾患や脊髄損傷などの中枢神経外傷に対しある程度の治療効果を有することが報告されている。平成17年度の本研究では神経保護効果を有することが知られる3種類のサイトカインの遺伝子(HGF:肝細胞成長因子、FGF-2:線維芽細胞成長因子、VEGF:血管内皮細胞成長因子)を、新規に開発した複製不能型単純ヘルペスウイルスベクターを用いて骨髄間葉系細胞へ導入し、これらの成長因子を強発現した骨髄間葉系細胞を作成。ラット脳梗塞モデル(中大脳動脈の一過性閉塞モデル)に対し脳梗塞作成後にこれら遺伝子導入細胞の脳内移植治療実験を行った。HGF、FGF-2、VEGFいずれを強発現させた骨髄間葉系細胞の移植群においても、遺伝子導入をしていない骨髄間葉系細胞の移植群およびPBS治療群に比べ、有為な神経症状の改善と脳梗塞面積の縮小効果が示された(HGFおよびFGF-2を用いた研究については論文発表済み:下記研究成果に記載。VEGFに関しては論文執筆中)。その治療効果の機序として、遺伝子導入細胞移植群では虚血分水界領域(ペナンブラ)における中枢神経細胞のアポトーシス抑制効果が顕著であり、神経細胞の障害消失が低減されていることを明らかにした。現在、内因性神経幹細胞の分化増殖と骨髄由来細胞の脳内での生着と神経細胞への分化について詳細な検討を行っており、次年度にその研究成果を公表する予定である。
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