既存の脳梗塞治療を超える新しい治療法の確立に向け、神経栄養因子としての生物活性を有する各種サイトカインと骨髄間質幹細胞(以下BMSC)を用いた脳梗塞治療の研究に取り組んだ。すなわちBMSCに治療用サイトカイン遺伝子を導入することによって目的のサイトカインを長期に渡り発現分泌できる状態とし、これを脳病変近傍に移植するという治療戦略である。我々が新規に開発した複製不能型単純ヘルペスウイルスベクター:HSV-1 1764/4-/pR19を用いて神経栄養因子としての生理活性を有する成長因子(FGF-2/HGF/VEGF)をそれぞれ強発現させたBMSCを作成し、これらの脳内直接移植によるラット中大脳動脈閉塞脳梗塞モデルに対する治療研究を行った。その結果、いずれの成長因子を強発現させたBMSCも遺伝子操作をしていないBMSC(native BMSC)と比較し有為な神経症状の改善効果と脳梗塞体積の縮小効果を発揮し、かつその治療機序として虚血分水界領域での神経細胞のアポトーシス抑制が関与していることを明らかにした。:(i)『神経保護治療』またHGF強発現BMSCについては脳梗塞作成の2時間後と24時間後の脳内移植治療実験を行い、脳梗塞発症24時間後の治療ではnative BMSC群では治療効果がほとんど無く、HGF強発現BMSC群だけが有為な治療効果を示すことを確認した。これらの研究結果は成長因子遺伝子の導入により本細胞移植治療の"therapeutic time window"を拡大可能であることを示した点で意義のあるものと考えている。またFGF2/VEGF強発現BMSCの移植治療ではコントロール群に比べ有為に海馬および線条体での内因性神経再生が増強されていることを確かめた。:(ii)『内因性神経再生治療』
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