人工膝関節置換術において、生理的状態である膝蓋骨整復位での新たなギャップテクニックの開発と、同手技で行なった人工膝関節置換術中および術後の膝関節動態を解析することで、膝の静的スタビライザーである靭帯の適切なバランスや、動的スタビライザーの一つである膝蓋腱の至適緊張度を明らかにすることを目的として研究を行った。 変形性膝関節症もしくは関節リウマチ患者に対し、mobile機構を有した人工膝関節置換術を行ない、膝蓋骨整復位にて、予備実験で得られたトルクを参考にして各屈曲角度で骨切り部を開大し、その間隙を計測した。その際、膝蓋腱に単軸型箔ひずみゲージを接着して長軸方向の腱のひずみを同時に計測し、各屈曲角度における腱および靭帯内に発生する応力をコンピューターにて算出した。これらのデータと術後関節可動域の関係を解析した。 その結果、術中膝関節屈曲角度が大きくなるにつれて、膝蓋腱のひずみ値も大きくなっていた。また、深屈曲位での膝蓋腱のひずみ値が大きい症例ほど術後屈曲角度が悪い傾向がみられた。以上のことから、動的スタビライザーの一つである膝蓋腱を含んだ膝伸展機構の硬さが術後屈曲角度獲得の抑制因子になっている可能性が示唆された。 次に、術後成績の良い症例を対象として、X線透視像による人工膝関節術後の荷重時膝関節動態を解析した。その結果、大腿骨内顆は屈曲30度で軽度前方移動していたが、大腿骨外顆は屈曲に伴って後方へrollbackしており、結果としてmedial pivot patternを呈していた。このような屈曲に伴ったmedial pivotによる正常膝に近い回旋運動は、適切な靭帯バランスをとることで誘導されたと推定され、静的スタビライザーである靭帯の適切なバランスの重要性を示唆するものである。
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