血行性転移はがんが転移する際の主経路であるが、全身に播種された後の微細な血管に詰まったがん細胞の動態は依然として不明である。そこで我々は、がん細胞が毛細血管に詰まった際の、がん細胞の変形や遊走を観察できるモデルを確立することを目指した。細胞の動的変化を詳細に可視化するため、ヒト線維肉腫HT-1080の細胞質にはDsRed2を、核にはヒストンH2BにリンクしたGFPを発現させ、HT-1080-dual細胞を確立した。ヌードマウスの心臓に5x10^6個の細胞を注射し、腹部の皮膚をフラップ状に展開し、その内側を観察した。毛細血管内では、がん細胞は細胞質のみならず核までもが血管の幅に合わせて変形した。十分細い毛細血管内では、断片化した細胞質が観察された。小動脈内のがん細胞に比べ、微小動脈内のがん細胞は、細胞全体では4倍伸びていたが、核は1.6倍しか伸張していなかった。がん細胞は、直径8μm以上の血管内ではその80%の細胞が遊走し、そのスピードは最大48.3μm/hrであった。ところが、8μm以下の血管内ではその84%の細胞は運動することができなかった。この実験で確立されたスキンフラップモデルは多くの利点を有していた。すなわち、細胞の観察がマウスの呼吸や心拍に影響を受けないこと、主な動静脈を損傷することがないこと、24時間後でも再び元の位置に縫い合わせることができること、マウスにとって致命的な操作とならないこと、などである。このdual-color細胞を用いたがん細胞動態の観察は、細い血管内のがん細胞の遊走や変形のメカニズムを知る上でのまったく新しい方法であり、有用な実験モデルであるといえる。
|