豚の死体骨格から靭帯付着部や関節軟骨構造の個体差などを調査を完了した。そして、死体膝を用いて膝前十字靭帯再建術を行なった。具体的には自家多重折ハムストリングとポリエチレン糸でエンドボタン固定した。この再建靭帯の強度を調べるために脛骨と大腿骨をInstron 5565に固定し引っ張り試験を行なった。徒手的検査では十分の固定性と手術精度があることを確認できたが、Instronでの精密測定では回旋方向への安定性にばらつきがあることが判明した。そこで、最適な靭帯再建角度の検索を行なった。手術道具としても中空ドリルなどを考案した。このような回旋不安定性は予備実験では分からなかったことであったため、当初の動物手術の予定を実施することはできなかったが、豚膝関節を用いた実験の問題点や改善点をあきらかにすることができた。 豚関節軟骨の共焦点顕微鏡観察も行った。関節表面からtide markまでを8層に分割し、各層における細胞密度と細胞容量分画を測定した。ヒトとほぼ同様の厚さ3mmの厚さを持っていたが、豚の関節軟骨のほうがやや細胞成分が多かった。また、一部の膝メニスクスは軽度ながら損傷しており、同部位の関節軟骨は細胞密度と細胞容量分画が変動していることがわかった。従来の研究では無処置の豚の関節軟骨は全て正常として扱われていたが、本結果によってメニスクスの観察が非常に重要であることが判明した。同様の観察をウサギとラットでも行なったが関節症性変化は明らかではなかった。 上記の結果から生きた動物の手術としては家兎を使うのが容易であることが明らかだったため、ウサギの膝を用いた手術実験も行なった。ウサギの膝は屈曲位にあるため最終的な解釈には問題があるものの、靭帯再建によっても関節症変化が容易には予防できないことが明らかになり、靭帯再建後の重要な問題として変形性関節症が起こることを確認できた。
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