研究概要 |
脱髄後に再髄鞘化を起こす多発性硬化症に即した化学的脱髄モデルと、再髄鞘化を生じない圧挫滅外傷性脊髄損傷モデルを用いたわれわれのこれまでの研究過程において、圧挫滅脱髄モデルではミエリン脱落組織(debris)が長期残存する現象が認められている。従って、ミエリンに発現される軸索再生阻害因子も長期残存し軸索再生に影響を及ぼしている可能性が考えられ、これらの脱落組織を除去するマクロファージの動態についての比較検討を行った。圧挫滅脱髄はラット脊髄を35g重錘で5分間圧迫し、化学的脱髄は1%Lysophatidylcholine 2μlを脊髄後索に注入して作成した。損傷2日後と4日後に損傷部脊髄の横断切片を作成し、マクロファージの抗体はCD68(ED1)を,ミエリンの抗体はmyelin basic protein(MBP)を用いて免疫組織学的検討を行った。2日後の化学的脱髄において脱髄部周囲にED1陽性細胞の集積を認めたが、圧挫滅脱髄モデルでは脱髄部と脱髄周囲のED1陽性細胞は少数であり、明らかな集積は認めず、脱髄4日後では化学的脱髄モデル脱髄部にED1陽性細胞が有意に集積し、debrisが著明に減少した部分も見られた。集積したED1陽性細胞の一部は内部にMBP陽性部位を呈しており、貪食作用を見ている可能性が考えられた。一方、圧挫滅脱髄では脱髄部への有意な集積は認められなかった。マクロファージ遊走能や活性に関与する因子として、TNFα、TGFβ、MIP-1、MMP-9等の発現をRT-PCRにて解析し両モデル間で比較すると、圧挫滅損傷4日目にMCP-1の著明な増加が認められた。以上の結果からdebrisの残存に対し、両モデル間におけるマクロファージ遊走能や貪食能の差異が影響しているが、マクロファージ集積低下には遊走因子以外の因子が関与している可能性が示唆された。
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