本研究では成長軟骨cDNA発現ライブラリを用いた軟骨細胞分化調節因子の同定に取り組んでいる。3週齢C57BL6/Jマウス肋軟骨より抽出したmRNAを逆転写することにより得た成長軟骨cDNA発現ライブラリをすでに作製し、軟骨前駆細胞株ATDC5に導入して分化調節能を評価する実験を進行中である。また、本研究の計画は2年を要する長期的なものであり、研究遂行には時間がかかることも予想されたため、本研究の一環として東京大学医科学研究所北村俊雄教授の協力を得て、分泌蛋白質のスクリーニングとして極めて有効な手法であるSST-REX法(Signal Sequence Trap based on Retroviral Expression)を応用し、軟骨細胞の分化にあずかる分泌蛋白因子の網羅的な同定も同時に試みている。SST-REX法は、レトロウイルスライブラリによって導入されたcDNAのN末端シグナル配列の有無を、IL-3非存在下でのBaF3細胞の増殖という極めてシンプルなアッセイ系によって評価できる、分泌型蛋白質のスクリーニングとして強力で有効な手法である。この方法を取り入れた理由は、成長軟骨はそれを形成する軟骨細胞がそれぞれ分化しているものの、ほぼ単一の細胞群からなる組織であり、また細胞外基質に富むため周囲組織や細胞からの信号を受け取っているとは考えにくく、したがって細胞分化をつかさどるシステムとして何らかのParacrineもしくはAutochneシグナルの存在が予想されたためである。本方法により得られた75クローンのうち、25クローンは前もって予想された細胞外軟骨基質を構成するprocollagen type II alpha 1 chainであった。これはこのスクリーニング系が機能していることも示している。II型コラーゲン以外にも、Limitrin、Adipoq、Asp3、Mxra8、Spp1、XV型コラーゲンといった分子群が成長軟骨より分泌蛋白として生成されていることを突き止めた。今後、In vivoでの発現解析および軟骨前駆細胞株ATDC5を用いた機能解析に進む予定である。
|