研究概要 |
われわれはこれまでに、軽い虚血という条件づけで誘導される脳虚血耐性の発現機序にアデノシンA_1受容体の活性化とミトコンドリアATP感受性カリウム(K_<ATP>)チャネルの開口が関与することを示した。もし薬理学的にタイミングよくアデノシンA_1受容体やミトコンドリアK_<ATP>チャネルを活性化できれば、虚血による条件づけと同等の脳保護効果が期待できる。特に、ミトコンドリアK_<ATP>チャネルの開口薬であるdiazoxideは、ネクローシスのみならずアポトーシスを抑制すると報告されている。一方、吸入麻酔薬のイソフルランにも脳保護効果があり、ネクローシスに対する抑制作用が主と推測されている。これらを考慮して、ネクローシスを抑制するイソフルランと、アポトーシスを抑制するdiazoxideを併用することでより効率的な脳保護法を確立できると考えた。 雄性Wistarラットを用い、イソフルラン1.5%の吸入による全身麻酔下に120分間の中大脳動脈閉塞を行った。Diazoxide(30mg/kg)を虚血前の様々な時期に腹腔内投与し、以下の4群(各群4匹)に分けた。D1,2,3群:1,2,3日前にdiazoxide投与。D1,2群:1,2日前に投与(3日前は生食投与)。D1群:1日前に投与(2,3日前は生食投与)。対照群:1,2,3日前に生食投与。虚血の3日後にTTC染色にて梗塞体積を測定した。 梗塞体積は、D1,2,3群:15±7mm^3、D1,2群:61±43mm^3、D1群:44±33mm^3、対照群:53±49mm^3であった。各群のラットの数が少ないので群間の有意差はないが、D1,2,3群で梗塞体積は小さい傾向にあった。 以上より、diazoxideの3日間連続投与が最も効果的と思われるが、さらにイソフルランの吸入濃度と脳保護効果との関連、ネクローシスおよびアポトーシスに対する抑制効果の検討が必要である。
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