心臓外科手術における人工心肺離脱時に、一過性に肺血管抵抗が増加し肺動脈圧が上昇することがしばしば認められ、これが血行動態の破綻をきたす端緒となる危険性があり、肺血管抵抗上昇のメカニズムを解明し、それに対処することは臨床的に重要である。 これまでに、臨床レベルでは心臓外科手術における肺動脈圧上昇に種々の血管拡張薬が試みられ、ある程度の結果を得てきた。また、基礎研究レベルでは、薬剤性肺高血圧モデルの肺動脈リモデリングと肺血管抵抗の上昇に低分子量GタンパクであるRhoの標的タンパクRhoキナーゼが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。麻酔薬存在下の急性期の肺血管抵抗増加には、慢性期の動物モデルと同様にRhoキナーゼ活性の一過性の上昇が関与している可能性がある。 上記を解明するために、ブタおよびラットの摘出肺動脈標本を用いて、アゴニスト誘発性血管収縮におけるRhoキナーゼ活性化の関与、および麻酔薬の有無がそれに及ぼす影響と、さらに、種々の血管拡張薬の存在がこの現象をどのように修飾するかについて、等尺性張力測定法を用いた生理学的手法用いて検討した。 2年間の研究により、比較的太い部分の摘出肺動脈リング標本においては、そのアゴニスト誘発性収縮にはRhoキナーゼの関与は大きくないことが示唆され、論文として発表に価する有意な結果を得ることはできなかった。 人工心肺離脱時の肺血管抵抗上昇のメカニズムを解明するには、肺血管抵抗の形成により大きく関与していると考えられるさらに細い径の肺動脈において検討を行う必要があることが明らかとなった。
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