麻酔薬の作用機序に関して、その作用部位として膜タンパク質が注目されてきてから久しい。最近では、GABA受容体などの抑制性の受容体に加えて、興奮性の受容体やチャネルが注目されている。その中でも、電位依存性ナトリウムチャネル(Naチャネル)やN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体が、麻酔作用の特に不動化という面で、重要な役割を担っていると考えられている。近年、吸入麻酔薬などがNa^+チャネルを抑制していることがいくつか報告されており、麻酔鎮痛機序に何らかの影響を及ぼしていると考えられている。我々はこれまでに、鎮痛薬や麻酔薬のNaチャネルに対する影響を解析してきた。Na1.2とNa1.4のサブタイプをそれぞれβサブユニットと共にアフリカツメガエル卵母細胞に発現させて様々な薬物の影響を電気生理学的に解析した。結果、鎮痛薬トラマドールとその代謝物M1、また、ステロイド系静脈麻酔薬であるアルファキサロンに関しては抑制、別の鎮痛薬ギャバペンチンは影響なし、鎮静薬デクスメデトミジンは、鎮痛作用が現れてくる高濃度では抑制を示す結果を得ている。また、NMDA受容体に関しては、吸入麻酔薬やアルコール類、キセノンの作用部位を639番目のアミノ酸だと特定し報告した。更に、その部位はケタミンや亜酸化窒素の作用部位とは異なり、違った機序で抑制していることも示した。今後は脊髄後根神経節細胞にて、パッチクランプ法やカルシウム画像解析法を用いて実際の細胞活動に及ぼす影響を観察していく予定である。 今後も、これらの研究を更に深く追求し、麻酔薬の作用機序を少しでも明らかにし、より安全な麻酔方法を確立する手助けとなりたいと考えている。
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