腎上皮細胞のMDCK細胞にv-srcを導入することでMDCK細胞はトランスフォームし、浸潤転移能を獲得し、浸潤に重要とされる膜型マトリックスメタロプロテアーゼであるMT1-MMPが発現誘導されることを示した。また、この細胞が高率に転移を起こし、転移浸潤にMT1-MMPが重要と考えられた。MT1-MMPをMDCK細胞に遺伝子導入した場合、細胞の形態変化は認められなかった。MDCK細胞はコラーゲンゲル内での三次元培養を行った場合、HGFの存在下で管腔構造を形成することが知られている。この管腔形成はMMPの阻害剤であるBB94で阻害され、MMPのinhibitorであるTIMP-2では阻害されるが、TIMP-1では阻害されないことが分かった(MDCK細胞へのそれぞれの遺伝子導入細胞とリコンビナントタンパクで確認した)。また、コラーゲンゲル内にMDCK細胞を三次元培養することでMT1-MMPが発現誘導されたが、HGFの有無にはよらなかった。MT1-MMPを導入したMDCK細胞をコラーゲンゲル内で三次元培養した場合、もとの細胞に比べて、内腔が非常に大きい嚢胞状の形態を示し、ここにHGFを加えると嚢胞から突起を出したような形態をとった。この嚢胞形成は、TIMP-1では阻害されなかったが、TIMP-2では阻害された。MT1-MMPは当初はgelatinase Aを活性化するタンパクとして同定されたが、geratinase AはTIMP-1、TIMP-2いずれでも阻害されるため、今回の現象はMT1-MMP自身がコラーゲンを分解して起こったと考えられた。MT1-MMPは細胞がコラーゲンと接触することで発現が誘導され、HGFの存在下でその局在が規定されているようであった。細胞が浸潤転移を起こす場合、また、器官形成を行う場合、周囲の間質を分解し空間を作る必要があり、MT1-MMPがそのプロセスに重要な役割を果たすと考えられた。
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