研究課題
前立腺の腺構造構築における前立腺特異抗原(prostate-specific antigen:PSA)の役割良性ヒト前立腺上皮細胞を初代培養し、SV40 large T antigenにより不死化したBPH-1細胞はアンドロゲン受容体を有していないため、PSAを産生・分泌していない。今回、PSA発現レトロウィルスベクターをBPH-1細胞へ導入し、前立腺の腺構造構築におけるPSAの役割を検討した。検討1)前駆型PSA(PrePro-PSA,Pro-PSA)、活性型PSA(Active-PSA)の遺伝子配列を有するレトロウィルスベクターをBPH-1細胞へ導入した結果、全てのPSA発現ベクターよりmRNAの発現が確認された。しかし、ELISAおよびWestern blottingによる検討ではPrePro-PSAのみでPSAタンパク質の産生・分泌が確認された。PrePro-PSA導入BPH-1細胞の増殖能は、PSAタンパク質非産生BPH-1細胞に比較して有意に高かった。このとき、細胞内のMAPRシグナル(ERK1/2)が特異的に活性化していた。BPH-1細胞は、Protease-activated receptor 1(PAR1)を有しているため、PSAがPAR1を介してERK1/2を活性化し、細胞増殖を刺激したと考えられた。検討2)I型コラーゲン中にて、BPH-1細胞とラット泌尿生殖洞間充識細胞を混合し、免疫不全ヌードマウスの腎被膜下へ移植した(組織組み替え実験)。4週間および12週間後にマウスを屠殺し、得られた前立腺組織を病理学的、免疫組織学的に検討した。その結果、PSAタンパク質発現BPH-1細胞が形成した前立腺では、サイトケラチン14(CK14)の発現を特徴とする基底細胞の存在を認め、より正常に近いヒト前立腺の腺構造を構築できることが明らかとなった。BPH-1細胞は腺上皮由来であるため、間充識細胞からのパラクラインシグナルと、PSA発現によるBPH-1細胞内のMARKシグナルの活性化が、腺上皮細胞を基底細胞へとtransdifferentiationさせたと考えられた。
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