研究課題
良性ヒト前立腺上皮細胞を初代培養し、SV40 large T antigenにより不死化したBPH-1細胞はアンドロゲン受容体を有していないため、前立腺特異抗原(PSA)を産生・分泌していない。今回、PSA発現レトロウィルスベクターをBPH-1細胞へ導入し、前立腺の腺構造構築におけるPSAの役割を検討した。組織組み替え実験は、I型コラーゲン中にてBPH-1細胞とラット泌尿生殖洞間充識細胞を混合し、免疫不全ヌードマウスの腎被膜下へ移植することにより遂行した。移植してから4週間後に、25mgテストステロン錠および5mgエストラジオール錠を皮下に埋め込み、8週間の処理後、マウスを屠殺し、得られた前立腺組織を病理学的、免疫組織学的に検討した。ステロイドホルモン非投与群において、PSAタンパク質非産生BPH-1細胞(n=27)が正常腺管を形成する割合が約30%であったのに対し、PSAタンパク質発現BPH-1細胞(n=24)では約50%と有意に高かった。次いで、ステロイドホルモン投与群では、PSAタンパク質非産生BPH-1細胞(n=26)の約75%で癌が発生するのに対し、PSAタンパク質発現BPH-1細胞(n=26)では約50%と低値を示した。昨年度の検討より、PSAタンパク質発現BPH-1細胞が形成する前立腺は、連続した基底細胞の発現を認め、より正常に近いヒト前立腺の腺構造を構築できることが明らかとなっている。今年度は、PSAタンパク質発現BPH-1細胞が形成する前立腺は、PSAタンパク質非産生BPH-1細胞に比較して正常腺管である割合が高いことを明らかにした。さらに、ステロイドホルモン誘発性の発癌実験において、PSAタンパク質発現BPH-1細胞が形成した正常腺管はステロイドホルモンの影響を受けにくく、その結果、発癌率が有意に低い結果となった。本研究により、PSAはヒト前立腺上皮細胞内のシグナル伝達経路に影響し、さらに、間質由来パラクラインシグナルの存在下では細胞分化を制御する可能性が示唆された。
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