研究概要 |
現在まで、精子無力症の原因の一つである精子運動抑制因子(seminal plasma motility inhibitor, SPMI)と、その前駆物質で精液凝固体の主な成分であるSemenogelin(Sg)に関する基礎検討として、受容側である精子におけるSPMI作用部位と受容機構の解明を目的として研究を行ってきた。今回はSPMI免疫染色を行い、透過型ならびに走査型電顕を用いてSPMIの詳細な局在を検討した。免疫染色には健常者および精子無力症患者の洗浄精子を抗SPMI抗体で免疫染色後、金コロイド粒子で標識した二次抗体と反応させ、陽性シグナルを観察した。その結果、透過型電顕による観察では正常な精子膜上にはSgは結合していないことが明らかになった。Sgは精子細胞膜の損傷部位に結合していたことから、精子膜上にSgの受容体は存在しない可能性もあるが、除膜精子や、精子無力症患者の精子では精子内部構造にSgが結合しているような像も得られた。走査型電顕による観察では、透過型電顕での検討結果と同様に健常者の精子にはSPMIは結合していなかった。精子無力症患者においては先体部、先体後域、中片部、尾部と様々な結合パターンが見られたが、先体赤道部においてはSPMIの結合が全く見られなかった。以上より、精子無力症患者における精子細胞膜構造の異常は部分的ではなく精子の部位ごとに広範囲におよぶことが明らかとなり、先天的な異常が示唆された。先体部分は受精に重要な部位であり、今後は受精能獲得後の精子についてのSPMI結合性も検討していく。
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