本研究はヒト卵子の加齢現象と細胞周期蛋白、細胞骨格およびミトコンドリア機能との関連を明らかにすることを目的としている。すでに18年度にヒト未成熟卵子(GV卵子)を体外培養して得られる体外成熟卵子(IVM卵子)が加齢卵子の代替として研究できることを確認し、加齢卵子に特徴的な姉妹染色体早期分離がGV期のタキソール処理により抑制されることを見いだした。そこで本年度は、1.タキソール処理IVM卵子の受精後の発生率の調査、2.IVM卵子の細胞骨格及び各種蛋白の免疫染色、3.マウスを用いた加齢卵子の特性、を調査課題とした。課題1についてはタキソール処理IVM卵子の受精卵では桑実胚から胚盤胞への発生が促進されることが明らかになり、GV期の細胞骨格とそれに関連する因子が胚盤胞形成に影響する可能性が示唆された。課題2については検討を行うに十分なサンプルが得られなかったため翌年度に検討することとした。課題3のマウス卵子での加齢の特性をつかむため、老齢卵子と顕微操作を用いて老齢卵子の核を若齢卵子の細胞質に移植した核置換卵子において染色体異常率及び受精後の発生を比較調査した。その結果、マウスでは加齢により卵子自体に染色体異常は増加しないが、受精後の卵子活性化能の低下と極体放出異常が起こり結果的に受精卵の染色体構成が異常となった。卵子活性化能の低下と極体放出異常は若齢卵子への核置換を行なっても改善されないことから卵子の加齢の一つの要因は細胞膜にあることが示唆された。一方、老齢核の分裂は核置換により改善されたことより、老齢卵子では核分裂に必要な細胞質因子が減少あるいは変化することで正常な核分裂が乱されることが示唆された。本年度の結果より、卵子老化の実態が細胞質を原因とする核分裂異常と細胞膜を原因とする極体放出であることが確認されたため、これらを指標に卵子老化の原因物質を検索ことが可能となった。
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