【方法】癌においてDNA異常メチル化によって不活化される遺伝子はDNA修復、細胞接着、シグナル伝達、細胞周期関連など極めて多彩である。我々はIRBの承認と、患者の同意を得た上で、子宮体癌56例(類内膜腺癌46例、腺扁平上皮癌10例)、異型子宮内膜増殖症(AEH)14例および正常内膜27例由来の細胞診液状検体97例を用いて、hMLH1、E-cadherin、APC、p16、RAR-6、CHER遺伝子の計6種の癌関連遺伝子の異常メチル化を解析した。細胞診液状検体よりDNAを抽出し、亜硫酸水素ナトリウム処理し、DNA上の非メチル化シトシンをウラシルに変換させる。各遺伝子のプロモーター領域のCpGアイランドの塩基配列から作成したメチル化特異的および非メチル化特異的プライマーセットを用いてPCR反応を行い、各遺伝子のプロモーター領域の異常メチル化を解析した(MSP法)。異常メチル化を示した検体においては、その遺伝子の発現低下を組織において免疫組織化学染色法にて検討した。 【成績】解析した97例の細胞診検体すべてでMSP法による解析は可能であった。子宮体癌症例の44.6%にhMLH1、22.0%にAPC、14.0%にE-cadherin、13.3%にCHFRの異常高メチル化を認めた。hMLH1およびE-cadherinに異常メチル化が認められた症例は、有意にタンパク発現が低下していた(hMLH1:p<0.01 E-cadherin:p<0.05)。また、CHFRの異常メチル化は低分化型腺癌の28.6%に検出され、高分化型、中分化型に比べ有意に高頻度であった(p<0.05)。一方、p16の異常メチル化は検出されなかった。また、AEHの14.3%にhMLH遺伝子の異常メチル化を認めた。しかしながら、正常子宮内膜には6種の癌関連遺伝子の異常メチル化は認められなかった。子宮内膜の発癌過程において、正常内膜には認められない特定の癌関連遺伝子の異常メチル化が認められ、その中でもhMLH1遺伝子の異常メチル化が最も高頻度であり、子宮体癌の初期病変であるAEHにおいても認められたことから、hMLH1遺伝子の異常メチル化を分子指標とした微量検体による癌の存在診断や発癌のリスク診断の可能性が示唆された。
|