研究概要 |
子宮内膜症は性成熟期女性に高発する良性疾患であり、性成熟期の女性の月経困難症、不妊症の原因疾患として日常臨床で頻繁に遭遇する。近年、子宮内膜症の内膜上皮細胞には、病理学的に細胞形態は良性でも、遺伝子レベルでは染色体異常(特に17q染色体の異常、Loss of Heterozygosity)が頻発していることや、卵巣癌の中でも卵巣明細胞癌(OCCA)及び卵巣類内膜腺癌(OEMC)には子宮内膜症の合併が高率であることから、これら組織型の癌は既存の卵巣上皮細胞から発生しているのではなく、異所性病変である子宮内膜症がその発生源となっている可能性が高いことが考えられる。以上の背景から今回の課題では、子宮内膜症を合併するOCCA,OEMCの組織であり、その組織が形態的に良性の子宮内膜症(END)をへて、良悪性の境界的形態をもつ異型細胞(Aty)へと変化し、非浸潤癌から浸潤癌(Ca)へと連続して変化する組織切片のみ各4症例について、連続した組織のそれぞれの細胞性に、どのような違いが見られるかを免疫組織学的に検討した。 その結果、ステロイドホルモン感受性については、Estrogen Receptor(ER)とProgesterone Receptor(PR)は、OEMCではEND,Aty Caすべての部位に強く染色性が認識されるにも関わらず、OCCAではCaは全く認められなかった。しかし興味深いことに、OCCAのCaでは見られないステロイドホルモンレセプターの染色は、Atyではやや認識され、ENDでは他のEND細胞と同様に認識された。これより子宮内膜症から発生する両腫瘍は、ステロイドホルモン感受性からの離脱が発生母地は同様であるにも関わらず、性質の異なる別の組織型へと変化する一つの要因になっているのではないかと推察された。またEGFR、c-erbB-2の染色性の比較では、OCCAではEGFRがCaにやや強く見られ、c-erbB-2はOCCA、OEMCの両方に染色される傾向にあったことから、これらの結果をHerceptinやIressa(Gefitinib)感受性について考察する必要があると思われた。
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