胎盤絨毛を構成している栄養膜は、母体血に接している合胞体層とその内側に位置する細胞層(ラングハンス細胞層)の二層よりなる。妊娠初期にはラングハンス細胞層は連続的に存在するが、妊娠後期には胎盤の発達に伴い胎盤関門の構造は大きく変化し、細胞層が非連続的となり、物質交換が加速されると定説化されている。 今回の研究で、ラングハンス細胞に特異的なマーカーであるHAI-1(肝細胞増殖因子(HGF)に関連する、細胞膜結合クニッツ型セリンプロテアーゼインヒビターであるHGF activator inhibitor 1型)に対する抗体を用いて、胎盤発達に伴うラングハンス細胞層の構造変化を分子解剖学的に明らかにした。 同意を得て、妊娠中絶例の初期胎盤を、帝王切開例の正期産胎盤を採取し、HAI-1抗体等で多重標識し、独自に開発した超高分解能蛍光顕微鏡法、電子顕微鏡法で解析した。 初期胎盤絨毛において抗HAI-1抗体で染色されたラングハンス細胞は栄養膜合胞体層直下に連続した立方状の細胞層として観察された。正期産においてもHAI-1の陽性細胞は、コラーゲンタイプIVで同定される栄養膜細胞基底膜の直上に存在し、かつ栄養膜のマーカーであるサイトケラチン-7陽性であることから、ラングハンス細胞であることが確認され、そのラングハンス細胞は場所によっては非常に薄い扁平状を呈していたが、層構造が断裂することなく終末絨毛のほぼ全周にわたり連続して観察された。定量化解析では、初期絨毛ラングハンス細胞層の連続性は約90%であり、正期胎盤においても終末・中間・幹絨毛いずれも約80%以上の連続性を認めた。 今回の解析から、従来の成書の記載とは異なり、正期胎盤においてもラングハンス細胞層は断裂せずに層構造を維持していることがはじめて明らかとなった。胎盤絨毛の生理機能や関連疾患を考える上で興味深い新知見と考えられる。
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