Ad4BPは標的遺伝子プロモーター上において他の転写因子と協調的に発現制御を行うことが知られている。本研究では、Ad4BPの翻訳後修飾の同定とその解析を通じ複雑な複合体形成を伴うAd4BPの転写調節機構の解明を試みることを目的とした。Ad4BPの翻訳後修飾を明らかにする目的でAd4BPが発現するY-1細胞の核抽出液を2次元電気泳動で展開した。その結果、Ad4BPは複数のスポットとして検出されることから、細胞内で複数の修飾を受けていることが予想された。質量分析法にて翻訳後修飾を検索したところ、リガンド結合領域近傍に一つの新規リン酸化部位が同定された。この部位をリン酸化を模倣するアミノ酸に置換すると、野生型に比べ標的遺伝子に対する転写活性が著しく抑制された。この変異型ではAd4BPのDNA結合活性には変化がないことから、この部位のリン酸化が他の因子のリクルート、あるいは次の修飾を誘導するなどの制御に関与していると考えられた。これらの可能性について検討の結果、SUMO化修飾酵素であるPIAS1または3とAd4BPの相互作用が、このリン酸化によって調節されていることが判明した。実際に、リン酸化部位に変異をいれたAd4BPを用いて免疫沈降を行うと、リン酸化型においてPIASとの強い結合がみられ、細胞内でリン酸化型Ad4BPが野生型よりもSUMO化が促進されていた。以上の結果から、Ad4BPのリン酸化がSUMO化の前段階としてSUMO化修飾酵素であるPIASとの結合に重要な役割を持つことが示唆される。現在この部位に対するリン酸化抗体による検討を行っており、細胞の分化過程での役割およびこのリン酸化のシグナルカスケードにおける上流シグナルがどのような因子によって制御されているかを明らかにすることで、Ad4BPの転写制御機構および細胞外シグナルとのクロストークを解明できると考えている。
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