私の所属する研究室では、これまでに転写因子Ad4BP/SF-1がSUMO化修飾を受けることを明らかにしてきた。Ad4BP/SF-1は生体内においてWT-1、Sox9、GATA4、DAX-1などの転写因子と協調的な転写活性化の促進または抑制を行うことが知られているが、ミューラー管阻害因子のプロモーター上ではAd4BP/SF-1とSox9の間には相乗的転写活性化がみられ、これが両因子のSUMO化によって調節されることが判明している。この結果はプロモーター上での翻訳後修飾が転写の制御に重要であることを示しており、この観点からSox9の翻訳後修飾特異的な結合因子の精製を試みた。その結果、私は修飾を受けていないSox9に特異的に結合する因子の精製に成功し、質量分析においてExportinXを同定することができた。 組織学的な解析により、ExportinXは性分化過程のセルトリ細胞にSox9と共局在することが観察され、また免疫沈降法などの生化学的な解析より、ExportinXがin vivoでSox9と特異的に結合していることが明らかとなった。またExportinXのSox9における結合領域を同定した結果、ExportinXはSox9のHMG boxに特異的に結合することが判明し、ExportinXがSox9のDNA結合活性に影響を及ぼすことが示唆された。さらにレポーターアッセイによってSox9の転写活性化能に対しExportinXは抑制作用を示し、内在のSox9標的遺伝子の発現に対しても抑制活性をもつことが判明した。この結果は、ExportinXが細胞内でSox9の転写制御機構に関与することを示唆している。一方興味深いことにExportinXの過剰発現は内在のSox9のタンパク量を著しく上昇させることがわかり、ExportinXはSox9蛋白質の安定性に関与することが示唆された。 これらの結果は、ExportinXがSox9の局在、機能、安定性といった他段階の制御に関与している可能性を示すものであり、ExportinXの今後の解析が新規の遺伝子発現制御機構の解明に重要であると考えられる。
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