今回の実験に際して、予備実験として色素の血中投与による内耳リンパ液への移行性をまず検討した。(今回使用した色素は近赤外線領域において蛍光を有しており画像化することが可能である。) まず、モルモットを深麻酔下に、後耳介動脈よりフルオレセインNa(フルオレサイト)をtracerに用いて血中投与を行った。投与後脳脊髄を顕微鏡下に摘出し、蛍光眼底カメラにて撮影した。結果は聴神経は神経根の一部染まっていたが、その末梢側は描出されなかった。また、内耳を一部破壊した外リンパ漏モデルでは、内耳からのリンパ液は描出されなかった。結果、血中色素投与では内耳リンパ液への色素移行性は乏しい、もしくは描出可能な濃度の移行がなされていない可能性があることが示唆された。これは、血液脳(内耳)関門の存在により内耳への物質の移動が制限されていることによるものと考察された。 そこで、色素の髄液投与による内耳リンパ液への移行性を検討した。モルモットを深麻酔し、ICG(インドシアニングリーン)をlipoproteinをtracerとして腰椎からクモ膜下腔ヘマイクロシリンジにて投与した。投与後の経時的変化を観察し、脳脊髄を顕微鏡下に摘出し、作成した赤外線CCDカメラにて観察を行った。また、同様に外リンパ漏モデルにおいても観察を行った。結果は、投与4時間後でC-P angleでの聴神経周囲の描出はあったが、内耳より流出したリンパ液はカメラでの描出は不可能であった。 以上の結果より、血中・髄液投与では両者ともに聴神経中枢側への色素移行性は十分に認められたが、予想していた内耳への交通・移行を蛍光色素を用いて検出する事は非常に困難であることがわかった。臨床上髄液と内耳リンパ液との交通は知られているが、今回の動物実験において蛍光を用いて外リンパ液の漏出を鼓室試験開放術の際証明することは非常に困難で、今後臨床応用するには更なる研究が必要である。
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