本年度はクローディン11KOマウス、モルモットおよびGAD67-GFPマウスを用いて内リンパ直流電位(EP)の調節・発生機序の検討を行った。最初に、電気生理学的手法を用いてクローディン11KOマウスの内リンパ腔への薬剤投与時のEP変化の測定を試みた。しかし、マウス内耳は小さいためEP測定用電極と内リンパ注入用ピペットを同時に刺入することが困難であり、満足な結果を得ることができなかった。そこでモルモットを用い、内リンパ腔への薬剤投与実験を行った。微小ピペットを用いて内リンパ腔にCa^<2+>イオノフォア(1μMイオノマイシン)を含んだ人工内リンパ液を注入しEPの変化を測定すると、溶液のCa^<2+>濃度が10^<-5>M以上ではEPの有意な低下が観察された。このことは、内リンパ腔に面した細胞内の細胞内Ca^<2+>濃度が上昇すると、EPが低下することを示している。次に、内リンパ腔に膜透過性のL型Ca^<2+>チャネル阻害剤(ニフェジピン)を注入すると、EPの有意な上昇と、無呼吸負荷によるEP低下の抑制が観察された。したがって、内リンパ腔に面した細胞の細胞内Ca^<2+>はEPのレギュレーターとして働いており、無呼吸負荷時にはL型Ca^<2+>チャネルが開孔することで、細胞内Ca^<2+>濃度が上昇してEPが低下するものと思われた。さらに、GAD67-GFPマウスを用いて内耳血管条におけるL型Ca^<2+>チャネルの局在を免疫組織化学実験により検討した。この結果、耳血管条細胞のうち辺縁細胞に限局してL型Ca^<2+>チャネル(α1_D)の強陽性反応が観察された。以上のことから、EPの発生には辺縁細胞が関与しており、辺縁細胞内のCa^<2+>濃度を適正に保つことがEPの維持に重要であることが明らかとなった。
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