研究概要 |
研究目的:3-NP(3-nitropropionic acid)はTCA cycleのsuccinate dehydrogenaseの作用を阻害するミトコンドリアトキシンである。今回我々はミトコンドリアトキシン3-NPを正円窓に投与することにより蝸牛ミトコンドリア障害モデルを作成した。このモデルはその濃度に応じてTTS及びPTSが生じることが明らかになった。このモデルはTCA cycleを障害することにより代謝障害が生じていることが内耳障害発生機序の一つと考えられる。今回難聴を生じない30mM投与群に対し騒音負荷を行い内耳障害の病態解明を行い、内耳障害の予防法を検討する。 研究方法:実験動物として体重180-200gのS-D系Ratを用いた。3-NPの投与方法はそれぞれのラットの左耳後部を切開し骨包を開放して正円窓を明視下におき正円窓を損傷しないように3-NP 30mM(3-NP群)及び生理食塩水(control群)をそれぞれマイクロチューブ付きのシリンジポンプにて1.5μl/minで計3.0μl注入した。騒音付加は、投与2日目に115dB 2kHz OBNを1時間負荷した。騒音負荷前後、負荷1日目、3日目、7日目、14日目にABR(8kHz,20kHz)を測定した。 研究成果:3-NP群・Control群共に、騒音付加後に聴力閾値の上昇を認めた(3-NP群:8kHz/16.7dB,20kHz/31.7dB、control群:8kHz/17.5dB,20kHz/32.5dB)。付加後1日目と3日目には、control群では閾値上昇が持続していたが、3-NP群では閾値変化が消失していた(3-NP群:8kHz/-3.3dB,20kHz/3.3dB、control群:8kHz/17.5dB,20kHz/25.0dB)。両者の間には統計学的に有意差をみとめた(p<0.05:t検定)。付加後7日目と14日目にはcontrol群も閾値変化が消失し両者の間には有意差を認めなかった(3-NP群:8kHz/-10dB,20kHz/-6.7dB, control群:8kHz/-15dB,20kHz/-5dB)。
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