研究目的:ミトコンドリアトキシンを用いた永久的聴力閾値上昇モデル(PTSモデル)に対しアポトーシス阻害剤を、内耳障害後に経静脈的に全身投与しその効果を検討する。 研究方法:ミトコンドリアトキシン3-nitropropionic acid(3-NP) 500mMをSprague-Dawley Ratの正円窓窩に局所投与してPTSモデルを作成し、アポトーシス阻害剤z-Val-Ala-Asp(Ome)-fluoromethylketone(z-VAD-fmk)をモデル作成直後、1日後、2日後にそれぞれ尾静脈より経静脈的に投与した。聴力評価はAuditory Brainstem Response(ABR)にて術前及び術後経時的に行い、聴力固定後に組織学的検討を行なった。 研究成果:8kHzでは閾値変化が40dB程度にまで回復し有意に改善を認めた。20kHzでは聴力の改善はみとめなかった。組織学的には外側壁線維細胞の障害は顕著に抑制されたが、基底回転基底側では障害が残存した。 考察:アポトーシス阻害剤の投与により病理学的には蝸牛外側壁線維細胞の障害の顕著な改善をみとめたが、聴力障害は軽度の改善を認めたにすぎなかった。このことから永続性高度難聴の発症に線維細胞の果たす役割が大きいことが考えられる。またアポトーシス阻害剤の投与により細胞障害が抑制されたことから、本モデルにおいても線維細胞障害発現のメカニズムとしてアポトーシスの関与が考えられ本モデルでの永続性難聴の発症にアポトーシスが関与していることが示された。今回アポトーシス阻害剤をモデル作成直後に投与して聴力の改善が得られたことから急性高度感音難聴の一部でアポトーシス阻害剤の治療が有効である可能性が示された。
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