研究目的:ミトコンドリアトキシンを用いた永久的聴力閾値上昇モデル(PTSモデル)に対しその長期経過を観察し、アポトーシス阻害剤を用いた場合と比較しその効果を検討する 研究方法:ミトコンドリアトキシン3-nitropropionic acid(3-NP) 500mMをSprague-Dawley Ratの正円窓窩に局所投与してPTSモデルを作成した。聴力評価はAuditory Brainstem Response (ABR)にて術前及び術後経時的に行い、モデル作成後約110日経過観察後に組織学的検討を行なった。 研究成果:8kHzでは閾値変化が投与直後よりスケールアウトで固定され、僅かに回復するものがあった。20kHzでは聴力はスケールアウトのままであった。組織学的には外側壁線維細胞の障害は中回転では回復をみとめたが、基底回転では高度に障害が残存した。 考察:蝸牛外側壁線維細胞は再生能を有するため長期観察により障害が回復する可能性が考えられるが、今回の実験では外側壁の障害は中回転では回復したが基底回転においては残存した。これまでの当研究室の報告では3-NPの投与後に中回転・基底回転ともに外側壁線維細胞が障害されることから線維細胞は再生能を有するものの限界があることが判明した。また昨年の報告でアポトーシス阻害剤の投与により基底回転においても細胞障害が抑制されたことから、本難聴モデルにおいて、組織障害の抑制のためにもアポトーシス阻害剤を早期に投与する必要性があることが判明した。急性感音難聴の中には内耳エネルギー不全が存在する可能性が考えられており、急性感音難聴の治療にアポトーシス阻害剤の治療が有効である可能性が示された。
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