細胞の恒常性を維持するためにアクチンの整然とした集合は重要な要素である。一旦アクチン細胞骨格が音響外傷などのストレス刺激により障害されると細胞接着、透過性が変化する。内耳において正確な細胞骨格の構造は正常聴覚に必要であるが、その維持機構についてはほとんど解明されていない。Small Rho GTPaseはアクチン細胞骨格の調節因子であり、その中でもRac1、RhoAが非常に重大な働きをする。今回我々はラット音響外傷モデルを用いて蝸牛Small Rho GTPaseの役割を検討した。ラットは8kHzを中心としたオクターブバンドノイズを用いて110dB、3時間暴露した。直後には93.8dB(8kHz)、92.8dB(20kHz)、87.7dB(40kHz)の閾値の上昇を認め、1日後は78dB(8kHz)、79dB(20kHz)、82.7kHz(40kHz)と緩やかな回復を認め、1週間後51.2dB(8kHz)、54.3(20kHz)、70.2dB(40kHz)、3週間後51.2dB(8kHz)、51.8dB(20kHz)、67.7dB(40kHz)と聴力閾値は固定した。このラット音響外傷モデルを4つのグループ(音なし、音響暴露直後、1日目、7日目)に分けプルダウン法を用いて活性型Small Rho GTPase(Racl、RhoA)を測定した。音響暴露1日目で蝸牛内Rac1はより活性化され、逆にRhoAはより不活化することがわかった。つまり音響暴露は蝸牛内small Rho GTPaseの活性化、不活化に影響を与えることがわかった。活性型RaclはNADPH oxidaseを活性化し活性酸素を産生しRhoAを不活化する経路が他の組織でわかっており、音響刺激により蝸牛内においても同様のカスケードがあることが示唆される。
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