研究概要 |
網膜は、神経外胚葉に由来をもち、6種類の神経細胞とグリア細胞からなるというその組織学的構造から、グリア細胞と神経細胞との相互作用を研究する上で最適なモデルであると考えられている。本研究の目的は、網膜における神経ステロイドの局在、および発現量の変化を統合的に調べることにより、神経細胞とグリア細胞の相互作用を解明することにある。 本年度においてまず第一に、神経ステロイド合成に関与する酵素の一つである3α-hydoroxysteroid dehydrogenase(3α-HSD)が、網膜を構成する6種類の神経細胞と、グリア細胞であるミュラー細胞のいずれの細胞に局在するのかを、成熟ラット網膜で明らかにした。3α-HSD特異抗体を用いた免疫組織学的手法により、免疫陽性細胞が網膜全域に局在しており、特異的マーカーを用いることによりその細胞がミュラー細胞であることを特定した。さらに、生後の発生過程におけるステロイド合成酵素の発現時期とその細胞をRT-PCR、および免疫組織化学法で検索した。RT-PCRにより3α-HSDmRNAは、生後1日のラット網膜からすでに発現していることが明らかになった。生後1,3,5,7,14日のラット網膜を用いた免疫組織化学的検索の結果、網膜内層の神経節細胞網膜最内層および硝子体内に分布する血管内皮細胞に免疫陽性反応が生後1〜14日すべての網膜で認められた。これらの陽性反応は、成熟ラット網膜では認められなかった。生後14日令の網膜では、ミュラー細胞にも免疫陽性反応があり、成熟ラット網膜と同様の発現分布を示した。 これらの結果から、3α-HSDは形態学的に成熟されるまでの期間、神経節細胞や血管内皮細胞に発現し未成熟な網膜において細胞の分化・発達に関与し、成熟網膜のミュラー細胞に発現する3α-HSDは、細胞の分化とは別の機能に関与していることが示唆された。
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