網膜は、神経外胚葉に由来をもち、6種類の神経細胞とグリア細胞からなるというその組織学的構造から、グリア細胞と神経細胞との相互作用を研究する上で最適なモテルであると考えられている。本研究の目的は、網膜における神経ステロイドの局在、および発現量の変化を統合的に調べることにより、神経細胞とグリア細胞の相互作用を解明することにある。 アンドロゲンやプロゲステロンの代謝に関する酵素である3α-hydoroxy steroid dehydrogenase(3α-HSD)について、成熟ラット網膜および生後の発生過程におけるラット網膜を用いた研究により、3α-HSDは形態学的に成熟されるまでの期間、神経節細胞や血管内皮細胞に発現し未成熟な網膜において細胞の分化・発達に関与し、成熟網膜のミュラー細胞に発現する3α-HSDは、細胞の分化とは別の機能に関与していることが示唆された。 次に、神経ステロイド合成酵素の一つである、アンドロゲンやプロゲステロンの合成に関与する酵素3β-hydoroxy steroid dehydrogenase(3β-HSD)について、網膜を構成する6種類の神経細胞と、グリア細胞であるミュラー細胞のいずれの細胞に局在するのかを、成熟ラット網膜で明らかにしたウサギに免疫して得られた抗血清をアフィニティ精製したものを3β-HSD特異抗体として免疫組織学的手法により検索した。網膜組織を用いたウエスタンブロットにより、3β-HSD特異抗体は42kDaのタンパクを認識した。免疫陽性反応は、視細胞の細胞体およびその突起、特に内節に強い反応が認められた。また、内顆粒層の細胞体と内網状層の線維、および神経節細胞の細胞体にも陽性反応が認められた。これらの結果から、3β-HSDは網膜での局在から視機能調節に対する関与が示唆された。
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