本年度は新生仔マウスにおける網膜血管発生の細胞・分子メカニズムの解明に向け、プレキシン(Plexin)受容体分子による新生血管伸長方向の制御に焦点を絞り研究を進めてきた。新生仔マウス網膜血管では、PlexinD1遺伝子が血管内皮細胞および網膜神経節細胞の一部において発現しているのに対し、その内在性リガンド分子であるセマフォリン3E(Sema3E)は網膜神経節細胞の一部に発現が認められた。リガンド分子の中和を目的に、PlexinD1受容体膜外領域のリコンビナント蛋白を新生仔マウス眼内に投与した実験では、網膜血管内皮細胞における糸状仮足の急速な伸長がみられ、最終的に血管ネットワーク構造の異常をきたした。Sema3Eノックアウトマウスでも同様の網膜血管形成異常が認められている。さらに、Sema3Eノックアウトマウスでは網膜神経節細胞層の形成異常も見られることから、Sema3E-PlexinD1シグナルが網膜において血管系・神経系の発生を同時に制御していることがうかがえる(投稿準備中)。本年度はまた、昨年度行った核内受容体Tlxについての研究を進展させるべく、未熟児網膜症モデルマウスにおけるTlx遺伝子導入実験を行っている。これまでのところ、網膜アストロサイトにおけるTlx遺伝子の強制発現によって血管新生を網膜内に誘導するには至っていないが、今後さらに本研究を発展させていくことにより、研究課題である、虚血性眼疾患における網膜内機能的血管再生が得られるものと期待される。
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