【目的】srcの神経特異的アイソフォームsrcN1およびsrcN2は、神経芽腫の分化過程でその発現が上昇し、またその高発現が神経芽腫の強力な予後良好因子であることから、神経特異的srcが神経芽腫の分化に重要な役割を果たすことが予想される。一方で予後不良な神経芽腫や神経芽腫培養細胞株では神経特異的srcは発現せず、srcのみが発現するが、これら悪性度の高い神経芽腫におけるsrcの機能はいまだ解明されていない。【方法】SH-SY5Y、IMR32、RT-BM-1、およびSH-SY5YにNGF受容体であるTrkAを強制発現させたp23A4の4種の神経芽腫培養細胞株にsrc特異的チロシンキナーゼ阻害剤であるPP2(4-amino-5-(4-chlorophenyl)-7-(t-butyl)を添加し、細胞形態の変化、細胞の生存、レチノイン酸/NGFによる分化誘導におよぼす影響を検討した。【結果】1×10^<-5>M濃度のPP2処理によりすべての神経芽腫細胞株が数時間のうちに互いに凝集(aggregation)し、大きな細胞塊を形成した。この現象は正常コントロールとして用いたヒト線維芽細胞由来のTIG3ではみられず、神経芽腫細胞株に特異的な現象であった。このことからsrcの阻害は神経芽腫の細胞間接着を強めることが明らかになった。MTTアッセイでは神経芽腫細胞株の増殖は容量依存性に抑制され、BrdUアッセイによりこの増殖抑制は細胞分裂の抑制によるものであることが確認された。一方、p23A4をNGFで処理するとPP2の添加の有無に関わらず神経分化が誘導された。RT-BM-1をレチノイン酸で処理した場合も同様に、PP2処理の有無に関わらず神経分化が誘導された。またPP2無血清下のアポトーシス誘導には影響を及ぼさなかった。【考察】今回の結果から、srcおよびその神経特異的アイソフォームは神経芽腫の分化には少なくとも必須でないことが明らかになった。一方でsrcは神経芽腫細胞株において増殖を促進し、細胞間接着を不安定させている可能性が示唆された。この作用にはsrcの下流に存在するbeta-catenin/cadherin系の細胞間接着の阻害作用が関与していることが示唆される。多くの癌細胞において細胞間接着の不安定化は浸潤・転移能を促進する。このことから進行神経芽腫においてsrcはオンコジーンとして機能していることが推測される。
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