マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase=MMP)は、細胞外マトリックスの代謝に重要な役割を果たしている分子として、近年注目を集め、多くの分野で研究がされている。創傷治癒の場でも、重要な役割を果たしているとされているが、どのMMPが、いつ、どのような機序で創傷治癒に関与しているかは、まだはっきりと解明されていない。そこで、マウスにおけるコラゲナーゼ群のMMP-13とゲラチナーゼ群のMMP-9のそれぞれのノックアウトマウス及びダブルノックアウトマウスを用いて、創傷治癒の実験を行い、上皮化、炎症反応、肉芽形成、血管新生、瘢痕についての解析を行った。MMP-9、MMP-13ノックアウトマウスでは創傷治癒が遅延し、更にこれらのダブルノックアウトマウスでは、劇的に創傷治癒が遅延した。MMP-9とMMP-13ともに上皮細胞での発現を認め、ノックアウトマウス群では上皮化が遅延した。上皮細胞の増殖能は有意な差がなく、PAM cell(mouse keratinocyte)を用いたin vitroの実験では、BB94(MMP inhibitor)添加にて上皮細胞の遊走が抑制された。また、MMP-9及びMMP-13のsiRNAを上皮細胞に導入し、その遊走能を検討したところ、遊走が抑制された。以上のことから、MMP-9及びMMP-13は上皮細胞の遊走に関与していることが示唆された。また、MMP-13は線維芽細胞での発現を認め、ノックアウトマウスでは創収縮が遅延していることからMMP-13は創収縮に寄与していると考えられる。ノックアウトマウスより分離された線維芽細胞を用い、in vitroでの実験を施行したところ、MMP-13及びMMP-9/13ダブルノックアウトマウス由来の線維芽細胞は増殖能・筋線維芽細胞への転換能が低下することが初めて明らかになった。また、MMP-13ノックアウトマウスでは、血管新生が抑制されていたことから、MMP-13が何らかの形で、血管新生に寄与していることが考えられる。
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