本研究では歯の形状と空間的位置の関係を明らかにすることを目的にラット胎児より背側組織を含む下顎組織を取り出して、器官培養を行なった。本年度では培養可能であった胚期9日齢、および12日齢、14日齢のラット胎児より取り出した下顎組織を1週間培養し、歯胚の発生を観察した。その結果、いずれの日齢でも帽状期の歯胚が観察されたが、生体内での歯胚発生段階よりも遅延が生じていた。昨年度に引き続き、Wntプローブを作成するためにWnt cDNAライブラリーの作成中である。また、昨年度に引き続き、歯特異的なエナメル質の形成を担うエナメル芽細胞の分化過程を解明するためにエナメル芽細胞の細胞培養株化を試みた。本年度ではラットだけでなくマウスのエナメル芽細胞においてもテロメアーゼ遺伝子導入によるエナメル芽細胞の不死化を試みた。生後7日齢のマウス、およびラットの下顎切歯から単離した初代培養のエナメル芽細胞にコントロールベクターを導入することにより最適な遺伝子導入条件を決定した。決定した導入条件でテロメアーゼ遺伝子を導入し、ネオマイシンによりテロメアーゼ遺伝子が導入された細胞だけを選抜した。並行して、エナメル質に存在するタンパク質の主成分であるアメロゲニンの発現がTGFβ-1によって上昇するかどうかを観察した。その結果、TGFβ-1によってアメロゲニンの発現がわずかながら上昇する傾向が見られたが、安定した結果が得られなかった。この結果は、初代培養のエナメル芽細胞には種々の分化段階の細胞が含まれているためだと考えられた。このため、株化したエナメル芽細胞を用いてTGFβ-1に対する反応がどのように変化するかを来年度では調べる予定である。
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