ワニを用いた歯周組織の分化と再生に関わる因子の同定に関する研究を遂行するにあたり、平成17年度は、ワニ歯胚の分化と機能歯の歯根吸収の様子を観察を試みた。ワニ(メガネカイマン)の口腔内より機能歯ならびに歯胚を周囲の歯周組織と一塊として、麻酔下において摘出し、5%グルタールアルデヒドにて固定後、通法に従ってEPON812に包埋し透過電子顕微鏡による観察用の非脱灰樹脂包埋標本を作成した。また、一部のものは10%EDTAで低温脱灰を行った後、同様にEPON812に包埋し脱灰樹脂包埋標本を、また、パラフィンならびにセデュコールに包埋し光学顕微鏡による標本を作成した。 ワニの機能歯は、ヒトの歯と同様に槽生性でセメント質を有する歯根を持ち、通常、各機能歯の舌側根尖付近の歯槽窩中に2〜3個の同歯族性の歯胚を有している。歯胚の成長に伴い、機能歯の歯根は舌側より吸収されるが、この時の吸収のプロセスは、まず、歯胚が機能歯の歯髄腔内に進入する段階と、続いて歯髄腔側より歯根吸収が進む段階の、少なくとも2段階で起こる傾向があることが、本年度行った観察により明らかにされた。 第1段階である歯胚が機能歯の歯髄腔内に進入する段階では、破歯細胞による歯根吸収はセメント質より起こり、やがて象牙質を吸収するのが観察される。このときの歯根吸収の動態はヒトの歯におけるの歯根吸収とほぼ同様である。 しかし、これに続くプロセスである歯髄腔側より歯根吸収が進む段階では、象牙質の歯髄側より吸収が進み、セメント質の吸収はやや遅れてみられるという傾向がある。ヒトの歯では、一旦吸収が開始されるとセメント質、象牙質の区別なく一様に歯根を吸収していくという点でワニの場合と大きく異なっており、この現象について、現在、詳細な検討を行っている。
|