本研究では、嗅覚の一次中枢である嗅球を脳局所回路のモデルとして、そのシナプス構成について解析を行った。中枢神経系ニューロンの三次元構造は広範かつ複雑であり、そのシナプス構成を解析するには、光学顕微鏡による全体像と電子顕微鏡によるシナプス結合像を明確に対応させることが不可欠である。そのためにまず、ゴルジ染色様に神経を可視化できる細胞膜移行シグナル付きのGFPが組み込まれたSindbis Virusトレーサーを、ラット嗅球に注入し、嗅球内に存在する種々のニューロンの軸索、樹状突起、細胞体の形態を明らかにして、さらにそれらに免疫組織化学法を用いて、個々の化学的な特性を明らかにした。これらがどのように情報をやりとりしているのかを形態学的に明らかにするために、興奮性軸索終末に発現するシナプス小胞性グルタミン酸トランスポーター1(VGluT1)およびシナプス小胞性グルタミン酸トランスポーター2(VGluT2)の免疫組織化学法を用いて、興奮性の終末を標識した。この蛍光標識された軸索や軸索のスパインと興奮性終末を共焦点レーザー顕微鏡を用いて三次元的にその対応関係を確認した上で、そのうちのいくつかをPAP法と金コロイド抗体を用いて二重免疫電子顕微鏡標本を作製し、本当のシナプスの存在を確認した。その結果、共焦点レーザー顕微鏡で見られる終末とスパインの近接(Apposition)と電子顕微鏡で確認される本当のシナプスにはかなりの差異があることが判明した。しかしながら、実際には、超薄切の立体的な条件上ミスカウントするシナプスも勘案される上に、脳内におけるシナプスの可塑性は劇的でないにしろ、常に変化し、シナプスしたり、また離れたりを繰り返しているはずであり、シナプスしうる、または、こののちシナプスするという形態の意味は小さくないと考えられる。現在これらの実験で得られた所見を公表の準備を進めている。
|