本年度はT-metタンパク質の機能解析を行う計画であったが、近年、リンパ管内皮細胞の特異的蛋白として同定された内皮細胞ビアルロン酸受容体であるLYVE-1が報告され、抗体が発売された。そこで本年度は扁平上皮癌のリンパ管の分布や癌細胞によるリンパ管の誘導が転移といかなる関連性を有するかを検索し、癌のリンパ節転移だけでなく、リンパ管との直接的な関連を検討することを目的とした。免疫組織学的解析において癌組織におけるLYVE-1の発現形式は二つに分けられた。一つは癌胞巣に接して発現する場合である。これは癌胞巣の外側に位置する基底細胞類似細胞に接しており、光顕レベルの観察では結合織の介在が見られないものである。他の一つは、癌胞巣とLYVE-1陽性細胞との間に明らかな結合織の介在がみられる場合である。癌細胞の浸潤様式がINFαを示す高分化型扁平上皮癌では癌組織内の結合織中にLYVE-1抗体の陽性細胞はほとんど認められなかった。しかし、同じ高分化型扁平上皮癌で、INFαの浸潤様式を呈する場合でも、癌胞巣に接してLYVE-1の陽性細胞の出現を認める症例が見られた。一方、低分化型扁平上皮癌で、癌細胞の浸潤様式がINFγを示す症例では、各々の小さな癌胞巣間の結合織内に管腔形成を呈する内皮細胞にLYVE-1抗体に陽性が認められた。加えて、癌胞巣間に未だ管腔形成をしていない細胞にLYVE-1の発現を認めた。一方、VEGF-Cは内皮細胞および癌細胞に発現していた。大きな癌胞巣を形成する癌細胞では胞巣の外側に位置する基底細胞類似の細胞にVEGF-Cの発現を認めた。小さな胞巣を形成する癌細胞では、いずれの癌細胞にもVEGF-Cの発現が認められた。本研究において、癌組織内にリンパ管が存在し、なおかっそのリンパ管が癌胞巣と接触している場合に、転移している率が優位に高い可能性が示された。
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