二次口蓋形成においては、口蓋突起尖端に位置する被覆上皮(MEE細胞)は予定口腔上皮と異なる表現型を発現しており、左右口蓋突起間での接着誘導に働く。本研究では、MEE細胞の細胞運動能と形質転換(EMT)を制御する分子機構としてRhoファミリーとsnailを基軸とする細胞内情報伝達回路に注目し、マウス口蓋突起の器官培養モデルとともに、酵素処理により間葉と分離したMEE上皮シートの培養系での上皮表現型を規定する分子ネットワークの働きを解析する。初年度では、マウス口蓋突起の器官培養系でのMEE細胞の蛍光標識と標識MEE細胞の未標識間葉細胞間への移住経時観察を完了した。上皮間葉間の相互作用に働く分子ネットワーク(cdc42・Rac・N-WASP・MRCK・ERM)、MEE細胞間の接着関連分子(Eカドヘリン、βカテニン、アクチン、CD44、シンデカン)については、microdissection法により分離採取したMEE細胞と間葉細胞での遺伝子発現をリアルタイムPCRで解析した。特に、MEE細胞のEMT誘導に同調してsnail発現が高まることと、アンチセンス法によるsnail発現の抑制実験から、snailがMEE細胞の運動能の制御に強く関わっていることを証明した。MEE上皮シートモデルについては、胎生13.5日のマウス胎仔から二次口蓋突起を離断、2.4 U/mlディスパーゼにて上皮を剥離、IV型コラーゲン被覆膜に付着させる方法を確立した。現在、器官培養系でのsnail経路への特異的インヒビター(small GTPase阻害に働く百日咳毒素など)、口蓋形成の誘導因子(TGF-β3)と催奇形因子(過剰濃度のレチノイン酸)の共存下での分子活性と細胞動態を解析するとともに、snailノックダウン(アンチセンス法やRNA干渉)による実験モデルの準備を進めている。
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