若年性限局性歯周炎の起因菌であるActinobacillus actinomycetemcomitansの細胞質中には、耐熱性で、プロテイナーゼKに感受性のあるケモカイン阻害因子があることが知られており、本菌の病態発現に重要な役割を演じていると考えられている。 私はこのケモカイン阻害因子の同定のために、ラット好中球内のケモカイン依存性カルシウム濃度上昇阻害活性を指標とした、A.actinomycetemcomitansトランスポゾン変異株のハイスループットスクリーニング系を確立し、未知のケモカイン阻害因子の遺伝学的同定を行った。現在までに約4500クローンのスクリーニングを行った結果、野生株と同等に発育し、且つケモカイン阻害作用を有さない変異株を6つ同定する事に成功した。 得られた6株の変異株中の一株について、トランスポゾン挿入変異の入った遺伝子を、挿入したトランスポゾン配列を利用したリバースPCRとシークエンス解析によって同定した結果、シグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)をコードする遺伝子が挿入変異を受けていることを明らかにする事ができた。SPPはシグナルペプチダーゼによって切断された後のペプチドを、さらに分解する作用を持つ膜結合型のペプチダーゼである。意図するケモカイン阻害因子は可溶性であり、膜蛋白質であるSPPが目的の因子である事は考えにくいが、本因子の発現にはSPPが深く関与している事が示唆された。残る5つの変異株については現在解析中である。
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