限局性侵襲性歯周炎起因菌Actinobacillus actinomycetemcomitansの膜画分には、プロトンポンプ活性のある酸化還元酵素が存在しないため、本菌の生存における呼吸鎖の役割について、エネルギー代謝以外の観点から研究を進めた。 まず、A.actinomycetemcomitans膜画分由来の呼吸基質(コハク酸、NADH)依存性のスカベンジャー活性を確認する事に成功した。これによって、本菌の呼吸鎖がエネルギー代謝以外の生理的機能を有する事が示唆された。続いて、人工的な呼吸基質であるキノールを用いて膜画分由来のペルオキシダーゼ活性を測定する事に初めて成功した。 さらにこの呼吸基質依存性のスカベンジャー活性がどのような酵素によって触媒されているのかを明らかにするために、上記したキノール-ペルオキシダーゼ活性の精製に着手し、SDS-PAGEで>90%以上の精製度の精製標品を得る事に成功した。精製標品のN末端アミノ酸分析を行った結果、メチオニンを含むN末端側のアミノ酸10残基を決定する事ができた。この配列をもとに相同性検索を行つた結果、N末端側に一回膜貫通領域を持つ新規のペルオキシダーゼをコードする遺伝子をみいだすことに成功した。そしてその相同遺伝子は、大腸菌をはじめとする、呼吸鎖にシトクロムcを持たないグラム陰性桿菌に広く分布する事が明らかになった。 膜貫通領域を持つペルオキシダーゼは現在までに報告がないため、酵素学的に大変重要なだけでなく、微生物の生体防御機構を理解する上で非常に興味深い結果を、本年度に得る事ができた。
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