近年我々は、若年性歯周炎(限局性侵襲性歯周炎)の起因菌であるActinobacillusactinomycetemcomitansの呼吸鎖が、「活性酸素除去作用」を有することを発見した。A. actinomycetemcomitansの膜画分に過酸化水素を加え、そこに呼吸基質であるNADHやコハク酸を添加したところ、基質依存性に過酸化水素を水に還元したのである(ペルオキシダーゼ活性)。ところが、このような活性については先に報告が無く、どのような酵素や基質がこの活性酸素除去作用を担っているのかは謎であった。 平成18年度は、この活性酸素除去作用を担う酵素をA.actinomycetemcomitansの呼吸鎖からほぼ純粋に精製する事に成功し、生化学的に解析することができた。精製した酵素は、ユビキノール-1(UQ_1H_2)を基質として過酸化水素を水に還元するという、これまで全く知られていなかった反応を触媒する新規ペルオキシダーゼであったため、これをキノールペルオキシダーゼ(QPO)と名付けた。精製QPOのN末端アミノ酸配列情報を用いてQPO遺伝子を同定し、さらに生化学的解析を行った結果、QPOは3つのヘムcを結合した、N末端側に一回膜貫通領域をもつ分子量約52kDaの単量体タンパク質であることが明らかになった。統いて精製QPOの酵素反応速度解析を行ったところ、UQ_1H_2に対するK_m値は、大腸菌のキノール酸化酵素(シトクロムbo、bd)のUQ_1H_2に対するK_m値と酷似していた。以上の解析からQPOは、1970年にシトクロムcペルオキシダーゼが緑眼菌から発見・精製されて以来30年ぶりに発見された、真性細菌由来の新規なヘムペルオキシダーゼであり、3個のヘムcを結合したペルオキシダーゼとして初めての例、また膜結合型のペルオキシダーゼとしても真性細菌における初めての例となった。
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