研究概要 |
ヒト口腔から分離されるグラム陰性桿菌であるSerratia marcescensは,易感染性宿主に重篤な日和見感染症を引き起こすことが知られている.申請者は,S.marcescensの主たる病原因子として,同菌の細胞壁外膜に保有される内毒素性リポ多糖の活性中心であるリピドA分子に注目し,これら日和見感染症における宿主・寄生体関係について,その一端を明らかにするために,S.marcescensリピドAを単離・精製し,その化学構造について検討した. すなわち,LB培地を用いてS.marcescensの大量培養を行い,乾燥菌体を得た.同菌体は温水-フェノール法によりリポ多糖画分を抽出した.その後,透析ならびに酵素処理による精製を行い,リポ多糖画分を得た.同画分は酸分解処理後,抽出操作ならびにカラムクロマトグラフィーにより精製を実施し,目的物であるリピドAを単離することに成功した.S.marcescensリピドAの化学構造について解析した結果,単離した同リピドAは,NMR解析によりグルコサミン2糖からなる直鎖脂肪酸およびリン酸1残基を有することが推定された.また,マウス細胞を用いたルシフェラーゼアッセイにより,自然免疫において重要とされる宿主細胞受容体であるToll-like receptor (TLR)4発現株において明確な細胞活性がみられた.さらに,S.marcescensリピドAは,ヒト末梢血単核球細胞からの炎症性サイトカインであるIL-8産生誘導において,強力な内毒素活性を発揮するEscherichia coli由来リピドAと同程度の活性を示した.これらの結果から,日和見感染症の原因菌であるS.marcescens細胞壁外膜に存在するリピドAは,本菌の重要な病原因子の一つであると考えられる.
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