我々は以前に石灰化能の異なる幾つかのマウス歯根膜由来細胞株を樹立したが、本研究ではその中で、石灰化促進培地(DM)での培養で石灰化能を有するものと有しないもの、及びマウス前骨芽細胞株MC3T3-E1を用いた。まずこれらの細胞間における遺伝子発現パターンの相違をマイクロアレイにより分析した結果、石灰化能を有しない細胞のみで顕著な発現が認められるものとして3種類の遺伝子を同定することができた。これらの中で、これまでその主たる発現部位は脳であると報告されてきた転写因子であるA、およびある種の癌細胞において発現が亢進しておりそのマーカーとして注目されているが、詳細な機能は依然不明であるBについては、特に大きな発現量の差を認めた為、これらと石灰化抑制機構との関係を調べることにした。具体的には、AとBを強制発現させるためのアデノウィルス、及び各遺伝子の発現を抑制するためのsiRNAの作製を行った。今後これらのツールを用いて機能解析を進めてゆく予定である。 一方、DMにおける単独の培養では石灰化能を示す歯根膜細胞であっても、様々な細胞が混在する実際の歯根膜の環境においては、その非石灰化状態を維持している可能性もある。この見地から、我々は、前骨芽細胞には発現せず、3種の歯根膜細胞株にはすべて発現するような遺伝子についても検索した。その結果得られた遺伝子の中で、特に強い発現を認める遺伝子Cは、ある成長因子の情報伝達制御因子として同定されたものである。この因子は、歯根膜細胞の増殖や分化に深く関わっているとされるものであるが、その作用機構の詳細は不明である。遺伝子Cの産物については、この他細胞骨格系の制御というまったく異なる機能を有することも報告されている為、歯根膜に加わるメカニカルストレスに対する感知・応答にも一役かっている可能性が考えられる。今後、以上の観点からCの機能に関する解析を行う。
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