本研究は、大脳皮質一次感覚野における感覚様式特異的な情報処理機構を解明するために、顔面の体性感覚を処理するバレル皮質と味覚情報を処理する島皮質の脳スライス標本を作製し、以下の実験を行った。 (1)膜電位の脱分極に伴って蛍光高度が減少する膜電位感受性色素を脳スライス標本に負荷して、IV層の電気刺激によって誘発される興奮伝播を計測および解析した。 (2)ホールセルパッチクランプ法によって細胞内にBiocytinを注入し、細胞体の位置および軸索・樹状突起の水平および垂直方向への拡がりを解析した。 その結果、バレル皮質および島皮質において機能的カラムを基本単位とした情報処理が行われていることが明らかとなった。また、このカラム内の情報伝達にはAMPA受容体ならびにGABA_A受容体が重要な役割を果たしており、NMDA受容体とGABA_B受容体の役割は小さいことが明らかとなった。さらにバレル皮質ではII/III層の錐体細胞の軸索側枝が水平方向に拡がって隣接カラムへ投射しているのに対して、島皮質のII/III層錐体細胞の軸索の多くは同一カラムのV/VI層へ投射するものがほとんどであることが明らかとなった。したがって、バレル皮質では機能カラム内およびカラム間の情報伝達によって体性感覚が処理されるのに対して、島皮質ではむしろ同一カラム内における情報処理が主要であり、カラム間の相互作用はバレル皮質と比較してその役割は小さいことが推察された。
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