顎顔面の体性感覚が入力する大脳皮質バレル領野と味覚情報が入力する島皮質における抑制性神経回路の違いを調べるため、ノマルスキー微分干渉顕微鏡にCCDカメラを組み合わせて赤外光にて脳スライス標本を観察し、II/III層に存在する錐体細胞からWhole-Cell Patch Clamp記録を行った。バレル領野において、錐体細胞から記録される自発性の抑制性シナプス後電流の発生頻度は、バレル内の位置によって差がなかった。一方、島皮質では、無顆粒皮質と不全顆粒皮質・顆粒皮質との間で自発性抑制性シナプス後電流の発生頻度が異なっていた。そこで、抑制性ニューロンの代表的マーカーであるparvalbumin、cholecystokinin、somatostatinの陽性細胞を免疫組織化学的手法によって染め出し、バレル皮質ならびに島皮質内におけるそれら抑制性ニューロンの分布を調べた。その結果、バレル皮質においては、palvalbumin、cholecystokinin、somatostatinいずれの陽性細胞についてもほぼ均等に分布する傾向にあったのに対し、島皮質ではparvalbumin陽性細胞の分布密度が無顆粒皮質で低かった。さらに、軸索終末と考えられる線維の密度も無顆粒皮質で低かった。parvalbumin陽性細胞はいわゆるFast spiking neuronであり、1つの活動電位によって錐体細胞に発生する抑制性シナプス後電流の振幅が、他の抑制性ニューロンと比べて有意に大きいことが知られている。したがってこれらの結果から、味覚情報を処理する島皮質では、parvalbumin陽性細胞の分布の違いによって、無顆粒皮質と不全顆粒皮質・顆粒皮質との間で異なった様式で情報処理が行われているのに対し、バレル皮質では、どの領域でも類似した抑制性神経回路によって情報処理が担われている可能性が考えられる。
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