グルタミン酸は痛覚伝達における最重要物質であり、その脊髄内でのホメオスタシスの破錠が痛覚感受性の異常発症の要因となっていることが予想される。グルタミン酸ホメオスタシスに中心的役割を担う分子はグルタミン酸トランスポーターであり、専らアストロサイトに存在するそれらがその機能を果たしていると考えられている。一方で、ミクログリアにもグルタミン酸トランスポーターは発現しているが、その役割及び調節機構については完全に把握されていない。また、ATP受容体P2X7はミクログリアに存在し、その機能調節に重要な役割を有することが知られている。そこで本年度は脊髄由来初代培養ミクログリアを用い、グルタミン酸トランスポーターとP2X7の関係に注目し、以下の点を新たに確認した。1)ATP及びP2X7受容体作用薬であるBzATP前処置によりグルタミン酸取り込み能は有意に抑制され、この効果はMAPキナーゼの一つであるERKカスケードを阻害するMEK阻害剤U0126及び抗酸化剤により著明に回復した。2)培養ミクログリアにおいてBzATP刺激により、ERKのリン酸化が誘導され、この効果はP2X7受容体拮抗薬により抑制された。3)BzATP刺激によりグルタミン酸の最大取り込み量(Vmax)の著しい低下が認められたが、細胞膜表面に存在するグルタミン酸トランスポーター量に変化はなかった。4)初代培養ミクログリア-脊髄後根神経節(DRG)細胞の共培養標本において、ミクログリアはDRGからカプサイシン刺激により遊離したグルタミン酸を取り込み、またこの作用はP2X7受容体拮抗薬により抑制されることを観察した。本研究結果は培養ミクログリアにおいてATP-P2X7がグルタミン酸トランスポーター機能に影響を及ぼすことで痛覚伝達を制御している可能性を示唆するものである。
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