研究実施計画に従い、本年度は分子シャペロンであるカルレティキュリン(CRT)と結合する90kDaのタンパク(p90)を同定した。最初に(i)大腸菌発現系でGST融合CRT (GST-CRT)の大量発現系を確立し、(ii)GST-CRTカラムを作製した。さらに(iii)GST-CRTカラムで培養細胞から調製された細胞膜画分を展開してp90を精製した。精製p90をペプチドマスフィンガープリント法で同定した結果、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)であることが示された。この事実からCRTとMPOの相互作用について、MPOの酵素活性を指標に解析を行った。その結果、CRT存在下では非存在下と比較してMPO活性が2倍以上に増加した。MPO活性の増加に伴いVmaxは増加したものの、Km値に変化は認められなかった。このことから、CRTはMPOの活性は増強するが、基質特異性には影響を与えないことが示唆された。 一方、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)の分化を制御する新たな因子を探索するために、(iv)MSCを骨分化誘導培地で培養してcDNAマイクロアレイ解析を行った。マイクロアレイのデータから機能未知のペプチドにターゲットを絞り詳細に検討した結果、hMSCはスクレイピー反応遺伝子1(SCRG1)を発現しており、骨分化に伴い経時的に減少することを見い出した。SCRG1はスクレイピーに感染したマウスの脳で発現が上昇するシステインリッチのペプチドとして発見されたが、その機能は明らかではない。しかしながら、ごく最近、NIH(米国)のOchiらによって、SCRG1は細胞外マトリックスに存在し、軟骨細胞の増殖や分化に関与していることが示唆された。現在、SCRG1と分化の関連について詳細に解析している。
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