転写因子AP-1では、悪性腫瘍において、主としてc-Junおよびc-Fosのヘテロ二量体の発現亢進が報告されてきた。近年、AP-1の遺伝子ファミリーに関して発がんとの関連が注目され、本研究では癌関連の研究が少ないjunB遺伝子について、クロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いてその転写ターゲット遺伝子の検索を行う。 初年度は、われわれが樹立した4NQO誘発ラット舌癌細胞株を用いてChIP法を行い、JunB蛋白と結合するDNA断片の回収を行った。ChIP法の予備実験として、ゲノムDNAとJunB蛋白とを共有結合で固定するための至適条件の検討を行い、得られた至適条件下で、ゲノムDNAとJunB蛋白との間に共有結合を生成させた後、ChIP法を行った。 平成18年度は、引き続きChIP法で得られたDNA断片をサブクローニングし、junB遺伝子の転写ターゲット遺伝子の検索を行った。ピックアップしたコロニーの約1/3を解析したが、現在までのところ特定の既知の遺伝子ないしESTを検出できていない。本研究用に設計したポジティブコントロールのプライマー・抗体のセットが有効に機能しておらず、実験の有効性の判定が困難であり、非特異的DNA断片が多数沈降してきていると考えられた。 まず、ゲノムDNAの細断法を超音による破砕法から、酵素法を用いた方法に変更し、条件検討を行った上でChIP法を試みている。最近、ラットで有効なポジティブコントロールシステムを見出したので、実験の検証も厳密になると思われる。 安定なラットChIP法の条件検討に時間を要したが、現在のところ複数の細胞系列を用いて、junB遺伝子の転写ターゲット遺伝子の検索を行っている。
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