研究概要 |
本研究の目的は、口腔用局所抗菌薬であるミノサイクリン軟膏投与に伴う口腔細菌叢へのインパクトを検討することである。まず我々は歯周病患者の歯肉縁上プラークを採取し、総レンサ球菌に対するテトラサイクリン(tet)耐性レンサ球菌の比率を求めるとともに、これらtet耐性レンサ球菌種の単離同定を行い、これが保有するtet耐性遺伝子を調べた。またミノサイクリン投与前後での耐性菌比率を比較した。 過去半年以内に抗菌薬投与を受けていない被験者24名における総口腔レンサ球菌に対するtet耐性口腔レンサ球菌が占める割合の平均は14.0±15.1%であった。一方、ミノサイクリン投与後のその比率は33.9±22.2%と有意に高くなった。同定できたtet耐性菌種としては、Streptococcus mitis, S.oralis, S.sanguinisが高頻度に認められたほか、S.milleli groupやS.salivariusも少数ながら散見された。また、単離された耐性菌が有するtet耐性遺伝子はすべてtetMであり、同時にTn916-like elementを1つ以上有していることがPCRおよびサザンブロットにより明らかになった。またtetM以外のtet耐性遺伝子はPCRでは検出することはできなかった。 以上より、口腔内には多様なtet耐性レンサ球菌が存在し、その占有頻度はミノサイクリン投与により高められた。また、口腔レンサ球菌におけるtet耐性付与はTn916-like element上のtetMに依存していることが示唆され、その保有頻度の高さと菌種の多様性から、口腔内における菌体間の耐性遺伝子の授受が推測された。今後、異菌種間でのtetM遺伝子の授受の可能性を検討する予定である。
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