研究概要 |
対象と方法:健常被験者8名に,タッピング時の垂直的下顎位(VJPT)を変える可変装置を装着し,約1.0Hzのリズムカルな軽い下顎タッピング運動を行うよう指示した.実験では,50回以上の連続タッピング運動を1セッションとし,これを5回繰り返した.各セッションは,タッピング回数7〜13回の5つのsub-session (SS : SS0〜SS4)に分け,SSの移行時にはVJPTを同量増あるいは減じて,これを1セッションで2回繰り返した.計測の対象はタッピング頻度(HZ),閉口距離(mm),最大タッピング力(N),タッピングの発現からピーク力までの時問(Time to peak : ms)である.統計的解析には,被験者(N=8),VJPT (N=5), SS(N=4),SS内のタッピング回数(TN=7)を主変動因子とする4元配置分散分析を用いた.多重比較にはLSD法を用いた. 結果と考察:VJPT増加直後の閉口距離は,減少直後の値より小さかった.試行3回目までは,VJPT増加の場合には漸増,減じた時には漸減し,3回目以降はいずれも安定したレベルを維持した.またVJPT増加直後の最大タッピング力は,試行2回目と3回目の値より大きく,逆に,VJPT減少直後は継続する2回目よりも小さく,3回目以降はVJPT増減の間の差異はなかった.Time to peakは,VJPT減少の場合,2回目の値は直後の値1回目に比べ減少したが,増加直後1回目と2回目以降の値に差はなかった. 以上の結果より連続下顎タッピング時に垂直的な下顎位を変化させたときのタッピング力の調節は,変化の方向に依存していること,および力の調節は変化後2-3回の試行でほぼ完成することが分かった.この変化の方向依存性と試行初期における調整の完成は,課題を忠実に遂行し,かつ咀嚼運動系の防御に必要であると考察した.
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