研究概要 |
研究の目的:急速な咬合高径の変更による下顎タッピング力調節特性を観察する上で,実際の食品を用いた実験を追加し,参考となる咀嚼運動の被調節特性を検索することにした. 対象と方法:顎口腔系の形態及び機能に異常所見のない24名(男性12名,女性12名、平均30.0歳)に,物質特性の異なる19種の食品(試料サイズ直径26mm,高さ10mmの円柱)をそれぞれ平常摂取に近い状況で咀嚼・嚥下するように指示した.咀嚼筋活動を測定するために,各被験者の左右咬筋浅部中央の表面筋電図を双極皮下誘導法で導出した.測定は各被験者で1食品につき1回ずつ行った,食物の接触から最終咀嚼までの総筋電図積分値(左右の平均値,以下総筋活動量という),全咀嚼時間,咀嚼回数を対象として解析した.統計的解析には,男女差(N=2),食品(N=19)を主変動因子とする2元配置分散分析を用いた. 結果と考察:総筋活動量に有意な影響を与えた因子は食品のみであった(P<0.001).またそれらの交互作用は認めなかった.全咀嚼時間と咀嚼回数に有意な影響を与えた因子は男女差と食品両方であったが(P<0.001),それらの交互作用は認めなかった. 以上の結果より総筋活動量,咀嚼時間,咀嚼回数はそれぞれ食品の物質特性に依存していることが分かった.さらに,各食品において総筋活動量に男女差がないにもかかわらず,女性は咀嚼時間が長く咀嚼回数も多いことがわかった.このことから,食品の物質特性を評価する手段して咀嚼筋活動量は有用なパラメータであり,また咀嚼運動1回あたりの活動量は男性が女性より大きいことが示唆された.さらに,同一の仕事量で顎口腔系に負荷をかける時間と回数は女性の方が大きく,顎関節症発症率との関連性も示唆された.
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